『東京マグニチュード8.0』|キュン死に一生アニメ第4回
毎回、涙腺崩壊必至のアニメを紹介するこのコーナー。第4回は、巨大地震に襲われた東京で、帰宅困難者となった中学生と小学生の姉弟が手を取りあって家路をたどる感動作です。
夏休み、13歳の姉と8歳の弟が遭遇した巨大地震
主人公の小野沢未来(おのざわみらい)は都心部の私立中学に通う中学1年生。自宅のマンションは世田谷区の成城にあり、共稼ぎの両親と、小学3年生の弟・悠貴(ゆうき)の4人で暮らしています。
13歳の未来は反抗期真っ盛り。やっと受験を終えてはじめての夏休みを迎えたというのに、旅行の予定すら立てない両親にいらだっています。父親と母親は仕事に忙しく、ちょっとしたことで衝突しがち。娘にも息子にもちゃんと向き合う余裕がありません。
夏休みにやりたいことどころか、将来やりたいこともなし。13歳にして人生に絶望してしまっている未来に対し、8歳の悠貴は明るく快活な少年です。親や姉に気遣いもできる悠貴は、夏休みだというのにつまらなそうな未来や、ぎすぎすした両親を見て、以前、家族で遊びに行ったお台場に出かけることを思いつきます。お台場ではちょうど悠貴が興味のあるロボット展が開かれているのです。
会社がある両親にとっては、悠貴の提案は「わがまま」でしかありません。母親は未来に自分たちのかわりを頼みますが、未来は「なんであたしが悠貴の面倒見なきゃいけないの」と反発します。
最後は「わかったわよ」と承諾する未来ですが、お台場に向かうゆりかもめに乗っているその顔は冴えません。巨大な連絡橋(レインボーブリッジがモデル)や広々とした景色に少し気分は変わるものの、駅を間違えて下りてしまったり、やっと着いたロボット展では順番を待つ人に文句を言われたり、買い物中に子ども扱いされたり、トイレに行った悠貴を待つ間に小さい子にソフトクリームをつけられたり、その母親に嘲笑されたりと、散々な目に遭ってしまいます。
「なんでこんなにイライラすることばっかりなの」
「毎日、毎日、ヤなことばっかり」
「わたしの人生、この先なにかいいことあるのかなあ……」
そう独り言ちる未来は、携帯電話でネットに書き込みをします。
もうヤダ。いろいろメンドくさいし、いっそのこと、こんな世界、こわれちゃえばいいのに。
そう打ち込んだ瞬間でした。地鳴りとともにお台場が揺れ始めます。小さな揺れから一転、立っていられないほどの大きな揺れに襲われた未来はしゃがみこみます。目の前のビルの窓ガラスは割れ、連絡橋は大きくたわみます。それどころか未来のいた高架の歩道も支柱が折れて傾いてしまいます。瓦礫が落ちてくるなか、未来は悠貴の名を叫びます。
知り合ったバイク便ライダーの日下部真理(くさかべまり)の協力もあって、コンビニにいた悠貴を助け出した未来は、真理とともに雨が降り出したお台場で夜を過ごします。海の向こう側の東京の空は、火災のせいか赤みを帯びています。
視聴者を圧倒する巨大地震のリアリティー
放映は2009年7~9月。本作は、いつか必ず来ると言われている首都圏での巨大地震を想定し、膨大なリサーチと検証に基づいて制作された作品です。
巨大地震というと、思い出すのは2011年3月の東日本大震災。あの地震では東京でも公共交通機関がストップし、推計352万人(首都圏全体では515万人)が帰宅困難者となりました。震災の2年前に放映された本作では、あたかもそれを予言するかのような被災者の姿や、救援に入った自衛隊や消防隊、医療従事者、ボランティアなどの活動が描かれます。
未来と悠貴が被災したお台場では、橋が損壊したため大勢の人々が取り残されてしまいます。携帯電話でなんとかテレビのニュースは観ることができますが、電話やメールはつながらず、家にいる家族か無事かどうかはわかりません。
やっと移送に用意された水上バスに乗って対岸に渡ってみれば、待っていたのは瓦礫だらけの東京の街でした。そこを未来と悠貴は真里とともに歩き始めます。32歳の真理は4歳の娘を持つシングルマザー。三軒茶屋に家がある彼女は方向が同じということもあって、未来と悠貴を成城へと送り届けようとします。
炎天下を歩く3人は体調を崩しながらも世田谷をめざします。とはいえ、平時とは違い、その歩みは遅々たるものです。
ときおり発生する余震。おなかを下してもトイレひとつ見つけるのがたいへん。サンダルのせいで靴擦れを起こしても、すぐに替えの靴を用意することができない。被災下で起こりがちな困りごとが次々と3人を見舞います。
作中、最大のスペクタクルは第4話で起きる東京タワーの倒壊です。タワーのたもとの公園で休んでいた未来たちは、基部が崩れて倒れてくる東京タワーの下敷きになりかけます。空から飛んでくる瓦礫。未来は姉をかばう悠貴のおかげであわや一命をとりとめます。
大地震では、本震のあとも建物の倒壊が起きる。けっして油断はならないことを教えてくれるエピソードです。
健気な悠貴と成長していく未来の姿に感動
3人は、途中、未来の学校や真理の会社の事務所で体を休めながら世田谷へと歩いていきます。目に入ってくるのは痛ましい光景です。遺体置き場となった学校の教会では母親を亡くした同級生を目にし、自分たちを地震で亡くなった孫と思い込む高齢の女性と出会います。
姉弟の保護者となっている真理にも、もちろん心配事があります。母親と娘がいる三軒茶屋で大規模な火災が発生し、住宅街を飲み込んでいるというのです。
本作の最大の見どころ。それは成長していく未来の姿です。
物語の冒頭では不満だらけで文句ばかりの未来ですが、未曾有の災害のなか、弟と助けあっていくなかで次第に姉らしい優しさを見せ始めます。それとともに笑顔が増え、ときには守ってくれる存在である真理を逆に励ましたりもするようになります。
全11話の物語は、後半、未来にとてつもない試練を与えます。受け入れることのできない現実に呆然とする未来を元気づけ、支えとなってくれるのは常に笑顔を絶やさない悠貴です。
地震発生から4日目、たどり着いた三軒茶屋は、火災はおさまっていたものの、真理の家は半焼していました。絶望と疲労から遺体安置所で動けなくなってしまった真理を救ったのは、悠貴のとった行動でした。ここで未来と悠貴は真理と別れ、成城に向かう自衛隊のトラックに乗り込みます。
揺れるトラックの荷台の上で、悠貴は未来に尋ねます。
「あのね、もしも、ぼくが死んじゃったらどうする?」
バカじゃないのと否定した未来は、悠貴に約束します。
「ねえ悠貴、夏休みまだ始まったばっかだし、落ち着いたらいっぱい遊ぼう」
未来にとって、一生忘れることのできない特別な夏。姉と弟、お互いを想いあうその姿に涙しない人はいないでしょう。
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