医療とフェムテックとで命を守る「子宮がん検診」|私のためのフェムテック(7)
女性特有の臓器にできる、子宮がんや卵巣がん。自覚症状が少なく、自分では気付きにくいという特徴があります。子宮がんや検診に関する知識を深めることは、自分を守るという意味でもフェムテックに直結します。
目次
子宮や卵巣のがんは、進行する前の発見が大切
全年代の女性に起きる可能性がある病気が、子宮がん。その種類について、産婦人科医の吉岡範人さんは次のように解説します。
「子宮の入り口にできる『子宮頸がん』は、20代から30代の比較的若い年代で発症することが多く、検診で発見されやすいのが特徴です。子宮の奥に発生する『子宮体がん』は年齢を重ねるほど高リスクになり、特に閉経前後での発症が多い傾向があります」
子宮がんには不正出血などの症状がみられますが、症状が現れにくく進行しやすいのが「卵巣がん」です。
「子宮は体の外とつながっている臓器なので、初期でも症状が出ることが多いです。一方、体の内部にある卵巣は症状が出にくい部位の1つ。“沈黙の臓器”と呼ばれることもあります」
子宮がんを早期発見するためには、検診を受けることが有効です。ただし、検診の際には気にとめておきたいことがあります。
「私は日ごろから多くの患者さんと接していますが、“自治体や会社の健診で子宮がん検診を受けているから大丈夫”と思っている人が多い印象があります。でも、実はこれは勘違い。自治体や会社の健診で受けられるは基本的に頸がん検診のみで、体がんの検診は別に申し込みが必要です」
クリニックによっては、希望すれば子宮頸がん検診と一緒に子宮体がん検診、卵巣がん検診も受けられることがあります。
「多少の料金は発生しますが、検診は病気を早期に見つけるための手段。40代以降の女性は1年に1度、体がん検診と超音波の検査を受けておくと安心です」
テック×ケア×医療で、適切にがんを発見
医療技術をはじめ、テクノロジーはどんどん進化しています。たとえば、近年話題となっているのが、自分で組織を採取するタイプのがんの検査キットです。
「自宅で簡易検査ができるキットは便利ですし、検査をより身近に感じてもらえるものでもあると思います。ただし、自分でしっかりと組織を採取するのはなかなか難しいのも事実です。検査キットの結果だけで安心することなく、医療機関でより精度の高い検査を受けることをおすすめします」
こうした検査キットに頼り切ってしまうと、デメリットもあるそうです。
「検査キットの結果で異常がなく安心していたものの、気になる症状が現れて病院で検査を受けたら実はがんだった! という患者さんもいます。もっと早く病院を受診していれば、早期の時点で診断がついたはずです。何か症状がある場合は、きちんと病院で検査や診察を受けてください」
海外への留学経験もある吉岡先生は、検査キットが普及した背景を次のように解説します。
「たとえば、アメリカのように医療費が高い国には、金銭的な問題で病院での治療や検査を受けられない人もいます。がんの検査キットはそうした国で代替医療として発展したものです。日本は国民皆保険制度があり、総額の7~8割引きで病院を受診することができます。もしかすると、検査キットの値段よりも病院で診察を受けたほうが安く済むかもしれません。ちょっと極端な言い方になりますが、お得に病院で診てもらうことができ、安くより正確な結果が得られるなら、こちらを活用した方が絶対にいいと思うんです」
とはいえ、子宮がんの検診や診察には内診がともなうため、抵抗感を感じる女性も少なくありません。
「だからこそ、かかりつけの婦人科医を持つことをおすすめします。医師と信頼関係を築くことで、内診への抵抗感は薄れるはずです。かかりつけの婦人科医がいれば気になる症状をすぐに相談でき、病気の早期発見にもつながります」
昨今、目覚ましい進歩をみせているAIも、将来の医療に役立つことが期待されています。
「過去の検査データなどをもとに比較分析することは、AIの得意分野です。将来的にはAIを活用することで、画像分析などの精度がより高まるのではないかと考えています」
医師が語る、フェムテックとの“適切な”付き合い方
フェムテック関連の発表会や勉強会に積極的に参加してきた吉岡さん。その過程で、新たな課題に気づいたといいます。
「画期的なフェムテックの商品やサービスが考え出されても、法令の問題で、医療器具や医療サービスとして許可を得るためには膨大な時間とコストがかかってしまいます。そのため、医療品ではなく“雑貨”として販売せざるを得ないのが今の日本の現状です」
雑貨として販売される商品の中には、女性のことを本当に考えて作られたものと、単に商売目的のものが混在しているといいます。
「その商品やサービスが本当に正しく、かつ安全なものなのか、買う側にはしっかりと見極められるようなリテラシーを持ってほしいと思っています。また、そうした判断が難しいのであれば、私たち医療者がフェムテックにも精通し、その役割を担うべきではないかと考えています」
たとえば、腟内で経血をためておける月経カップや経血を吸収するショーツは、婦人科医の吉岡さんから見ても画期的なアイテムだそうです。
「月経カップを使うことで、水泳選手は生理中でも練習ができるようになりましたし、一般の方も温泉などに気兼ねなく入れるようになりました。医学の世界では、これまで経血の計量は難しいといわれていましたが、経血を吸収するショーツの誕生で計測が可能になっています。このことは治療のさまざまな場面でも役立っています」
フェムテックと医療者が長年にわたって培ってきた知識や経験を組み合わせることが、女性の健康を維持することにつながります。
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取材・文/熊谷あづさ イラスト/桃色ポワソン
[ 監修者 ]