お腹がゆるいときの対策は?4タイプ別「下痢」の原因と予防法|田中友也さん 季節の養生法
神戸にある漢方相談薬局「CoCo美漢方」田中友也さんが、“季節の養生法”をお届けする連載。今月は、「下痢」がテーマ。冷たいものを食べすぎてお腹がゆるくなりやすいこの時期、セルフケアで対策しましょう。
目次
冷え、食べ過ぎ、ストレス…原因別「下痢」の4タイプを解説
お腹が痛くてトイレにこもる、一日に何度も便意を感じるなど、下痢が起こると日常生活にも支障をきたします。特に夏は、冷たい食べ物や飲み物をとることが多く、お腹がゆるくなりがちです。
下痢には、急に痛くなってお腹を下す「急性」と、普段から水分を含む水様便や軟便が多い「慢性」があります。その中でも、冷えや食べ過ぎ、ストレスなど、原因別に4タイプにわけられます。あなたの下痢は、次のうちどのタイプに当てはまりますか?
(1)【急性】冷たいものが原因の「冷えタイプ」
1つ目は、寒さでお腹の調子が悪くなる、急性の「冷えタイプ」。「寒邪(かんじゃ)」や「湿邪(しつじゃ)」と呼ばれる寒さや湿気の邪気により、体が冷えて下痢が起こります。冷房で体を冷やし過ぎたり、冷たい飲食物などを食べたりすることがこれにあたります。
東洋医学で「寒邪直中(かんじゃじきちゅう)」という言葉があります。これは、お腹の中に直接「寒邪(=冷たい飲食物)」が入るとお腹を下す、という意味。胃腸は冷えに対して弱いため、冷たい飲食物(寒邪)によって冷えるとお腹がゴロゴロして、突然トイレに行きたくなります。冷えタイプの便は、水のようにビチャビチャで、においも少ないのが特徴です。
(2)【急性】暴飲暴食でお腹を下す「食べ過ぎタイプ」
2つ目は、暴飲暴食したあとに起こる急性の「食べ過ぎタイプ」。飲み過ぎ・食べ過ぎた当日や翌日に急に起こる下痢です。
アルコールや脂っこい料理、甘い物などをいつもより多く飲んで食べることで、一気に胃の負担に。その結果、胃腸が処理できず、食べたものが流れるように通過します。暴飲暴食で処理(消化)しきれない食べ物が多いので、べチャっとした便で、においはきついのが特徴。翌日は胃腸の痛みやげっぷなどがあらわれます。
「急性」は、この2タイプ以外に、胃腸炎などのウイルスや細菌が原因で起こる下痢、生理前などのホルモンバランスの乱れで一時的に起こる下痢もあります。
(3)【慢性】消化吸収がうまくできない「胃腸虚弱タイプ」
3つ目は、慢性の「胃腸虚弱タイプ」。もともと胃腸が弱い人や、外食やコンビニ食が多く食事が整っていない人、加齢によって胃腸が弱ってきた人、病気が原因で体力が消耗している人が当てはまります。便は、水様便、軟便といったいつもゆるい状態。
普段から胃腸が弱っているため消化吸収がうまくいかず、気(エネルギー)や血が不足しがち。そのため不調や病気が起こりやすく、体調が優れない日が多くなります。毎日のように下痢や軟便が続いて疲れやすく、顔色も悪い、やる気が出ないなど、心身共に元気がないのが胃腸虚弱タイプの特徴です。
(4)【慢性】メンタルからお腹にくる「ストレスタイプ」
4つ目は、慢性の「ストレスタイプ」。大事な会議がある日の朝は電車の中でお腹が痛くなる、緊張したりプレッシャーを感じたりすると下痢になるという人は、ストレスタイプ。
五臓六腑のうち「肝」は、メンタルや自律神経を調節する働きがあります。「肝」と「脾(胃腸)」は関係が深く、ふだんは脾(胃腸)の働きが暴走しすぎないように肝が抑えています。しかし、ストレスが多くなるとその関係性が崩れ、肝が脾(胃腸)に悪さをするのです。そのため東洋医学では、過度なストレスが胃腸に悪影響を及ぼすと考えられています。
4タイプ別 「下痢」を予防・改善するための食養生とアドバイス
下痢でお腹がつらい…という人は、まずご紹介した4タイプのどれに当てはまるかを考えてみましょう。自分のタイプに合う養生を取り入れることで、徐々にお腹の調子が整っていくでしょう。タイプ別に、食養生とセルフケアのポイントをお伝えします。
※急性は、ウイルスや細菌の感染が原因の場合もあります。また、慢性の下痢でなかなか治らない場合は、疾患も考えられます。症状が改善しない場合やひどい場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
【急性】冷えタイプ:お腹を温めてホットドリンクを飲む
急性の冷えタイプは、下痢になったらまずお腹を温めることが大事。体が冷えない服装にする、カイロを当てる、蒸気で温める温活グッズを使うなどして、お腹周りをほかほかに。外出先で温めるものが何もないときは、手をお腹に重ねて温めるだけでも効果的。冷たい飲み物をやめて、下痢が治まるまでは生姜湯などの温かい飲み物をチビチビ飲みましょう。
また、冷えると下痢しやすい人は、日頃から体を温める食べ物をとり、体質改善しましょう。
冷えタイプにおすすめの食べ物…黒砂糖、シソ、唐辛子、ネギ、らっきょう、ショウガ、シナモン、ウイキョウ(フェンネル)など
【急性】食べ過ぎタイプ:1食抜いて胃腸を休める
急性の食べ過ぎタイプは、無理して食べるのをやめて1食抜いて胃腸を休めるのが良いでしょう。昨晩の暴飲暴食で朝に下痢になった場合は、朝食を抜いて様子を見ます。下痢が少し治まったら、午後からおかゆや雑炊、スープなど、温かくて消化に良い食べ物をとりましょう。暴飲暴食を続けないように注意!
食べ過ぎタイプは、次のような消化を助ける食べ物を食事に取り入れましょう。
食べ過ぎタイプにおすすめの食べ物…大根、かぶ、パクチー、パセリ、かぼす、キウイ、パイナップル、サンザシなど
【慢性】胃腸虚弱タイプ:食事・生活を整えて胃腸を安定させる
慢性の胃腸虚弱タイプは、弱った胃腸を元気にする食事や生活習慣を続けることで、お腹ゆるゆる体質の改善を目指しましょう。食事は、ファストフードやコンビニ食などをできるだけ控えて、脂っこい料理を避けてください。胃腸の元気のために、疲れをためすぎずに無理しない生活を心がけましょう。
吸収する力が弱っているので、飲み物は夏でも温かいものを。穀類や豆類などの胃腸に良い食べ物をとり、元気をつけましょう。
胃腸虚弱タイプにおすすめの食べ物…お米などの穀類、じゃがいも、大豆・枝豆などの豆類、にんじん、スズキ、タイ、タチウオなど
【慢性】ストレスタイプ:自分優先のメンタルケアを
慢性のストレスタイプは、メンタルのケアが最も大切。このタイプは、いくら胃腸のケアをしたところで、心が安定しないと症状は改善しません。ストレスをゼロにすることは不可能なので、嫌なことがあったら自分がよろこぶご褒美を用意する、気分転換になる方法を持っておくなど、ストレスを溜めないことが大事。緊張やプレッシャーでお腹が痛くなるときは、深呼吸して心を落ち着けてみてください。
ストレスタイプは、気が滞りがち。気の流れをスムーズにする香りの良い食べ物で養生しましょう。
ストレスタイプにおすすめの食べ物…シソ、ピーマン、かぼす、グレープフルーツ、みかん、キンカン、すだちなど
4タイプ別「下痢」対策に効果的なツボ
ここまで下痢対策の食養生と生活のポイントをご紹介しました。そのほかに、お腹の調子が悪いときにはツボ押しも効果的です。
【急性】冷えタイプに効果的なツボ:天枢(てんすう)
天枢(てんすう):おへそから指3本分外側の左右にあるツボ。
押し方:仰向けに寝て、リラックスした姿勢になります。人差し指、中指、薬指の3本を揃えて両手の指先を重ね、1カ所ずつ息を吐きながらやさしくツボを押して刺激。(お灸や温かい手、温活グッズで温めるのも効果的)
【急性】食べ過ぎタイプに効果的なツボ:中脘(ちゅうかん)
中脘(ちゅうかん):おへそから指幅5本分上の位置。
押し方:人差し指か中指の腹で、力を入れすぎない程度にやさしく押します。
【慢性】胃腸虚弱タイプに効果的なツボ:足三里(あしさんり)
足三里(あしさんり):ひざのお皿のすぐ下、外側のくぼみに人差し指をおき、指4本をそろえて、小指があたるところ。
押し方:骨の方に押し込むように、親指でグッと力を込めて、イタ気持ちいい強さで押しましょう。
【慢性】ストレスタイプに効果的なツボ:太衝(たいしょう)
太衝(たいしょう):足の甲の親指と人差し指の骨の間を、上に向けて指を滑らせて、指が骨と当たり、止まるところのへこんだ場所。
押し方:親指の腹を当てて、ズーンと響く強さで押します。
今月の養生ポイント:胃腸からのサインを見逃さず夏の養生を
東洋医学で「喜燥悪湿(きそうおしつ)」という言葉があります。これは胃腸の特徴をあらわした言葉で、湿気を嫌って乾燥を好むという意味。そのため湿気の多い日本の夏は、胃腸の働きが悪くなりやすく、反対に湿度の低い秋や冬はお腹の調子が良くなる傾向にあります。
夏は外からの湿気に加え、水分補給で水分がたくさん体に入ります。しかし、巡りが悪い状態だと、水がさばけずに体を冷やしてしまい、下痢になることがあります。
また、胃腸の弱さは、口や手足にあらわれるのも特徴。胃腸が弱っていると手足が重だるいと感じたり、口の中を噛んでしまったり、唇が乾燥したりします。さらに胃腸は、感情とも密接に関わっている臓器です。誰かを思ったり考えたりして、思い悩むほど食欲がなくなるのは、胃腸と感情が深く結びついているから。
このように、今の胃腸の状態はあなたの体や心にあらわれます。胃腸からのサインを見逃さずに、食べ過ぎ、飲みすぎに気をつけて夏を過ごしましょう。
取材・文/釼持陽子 イラスト/植松しんこ
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