「ウェルビーイング」で男性も女性も生きやすい社会に|私のためのフェムテック(8)
肉体的にも精神的にも社会的にも、女性が耐えることなく自分らしく幸せに生きるために、職場や社会に「気付き」を与えることもフェムテックのひとつ。できることからはじめることが生きやすい社会への第一歩です。
目次
時代が変わったからこそ、女性の負担に注目を
日本女性ウェルビーイング学会代表の笹尾敬子さんは、男女雇用機会均等法が施行される以前の1981年、女性総合職第1号として日本テレビ放送網株式会社に入社しました。当時の様子を、笹尾さんは次のように振り返ります。
「大手企業の採用条件では“女性は男性の補助職”と堂々とうたっていましたね。面接で『報道の仕事がしたい』とアピールすると『子どもができたらどうする?』と聞かれましたし、今では考えられないような質問がされていました」
仕事を始めてからも、女性であるというだけで理不尽な思いをしたといいます。
「女性の私が電話に出ると、間違い電話だと勘違いされて、ガチャンと切られるんです。警視庁詰め記者に抜擢された時には、スポーツ紙に“紅一点、桜田門をくぐる”と大見出しで掲載されてびっくりしたことも。その後、結婚して出産をしましたが、当時は育児休業制度はありませんでした。3カ月の産休は認められていたものの、賃金はカット。今なら大問題ですよね(笑)」
笹尾さんの入社から40年が過ぎた今、社会に進出する女性が増え、育児休業制度が当然のように確立するなど、女性を取り巻く環境は変化しています。
「ただし、環境が変わっても女性の体そのものは変わりません。むしろ負担は増えているといえるでしょう」
たとえば、ほとんどの女性が生涯で付き合わなければならない現象が、生理と更年期。仕事をがんばるあまり、無理をしている人は少なくありません。
「生理の場合、生理痛やPMSが寝込むほどつらくても“仕方がない”とあきらめ、“みんなこんなものだろう”と我慢してしまう人がほとんどです。しかし、生活に支障をきたすほどの生理は病気であり、治療の対象になります。また、更年期は程度の差はありますが、何らかの不調に悩まされる時期。心身の調子が思わしくなく、昇進などの機会を断念する女性がいるのが現実です」
働く女性にとって、こうした心身の症状は重要な課題です。
「女性の社会進出が進まない大きな要因のひとつに、男女の体の違いに起因する“女性の健康問題”があるのは事実。女性だけでなく、男性にも広く知ってほしいですね」
「ウェルビーイング」ですべての人が生きやすい社会を目指す
40年前に比べれば、女性を取り巻く環境は前向きに変化してきました。それでも、キャリアと結婚・出産を天秤にかけなければならなかったり、心身のゆらぎによって社会的地位をあきらめざるを得なかったりする女性もまだまだいます。こうした背景から立ち上がってきたのが、“ウェルビーイング”という考え方です。
「心と体が健康で、社会的にも幸せな状態であることが“ウェルビーイング”。人生にはつらいことや大変なこともありますが、それでも“私はウェルビーイングな状態だ”と思えることがとても大切なんです」
女性にとってのウェルビーイングとはどのようなものなのでしょうか。笹尾さんは次のように考えます。
「女性が心身ともに健康、かつ仕事のキャリアを築くことができ、幸せな一生を過ごせるようになってほしいと願っています。女性が我慢しないですむ社会の実現こそが、女性にとってのウェルビーイング。女性が生きやすい社会になれば、男性を含めた誰もが生きやすくなると思っています」
実は、ウェルビーイングはフェムテックとも密接な関係があるのだといいます。
「フェムテックは、女性の健康をフォローするテクノロジーやサービス。女性が生きやすい社会を目指すフェムテックの根幹には、ウェルビーイングの概念があると考えています」
社会を変えるには、まずは身近なところから
すべての人が心身ともに幸せに過ごせる社会を実現するために、私たちはどのようなことをしていけばいいのでしょうか。
「『生理は何日くらいで終わる?』『生理前後に不調はある?』など、女性の友人たちと生理や体調の話をしてみてください。自分では普通だと思っていた症状が、実は病気の一種だったと気づくこともあります」
さらに、私たち女性こそが持ちがちな偏見や思い込みを捨てるのも必要なこと。
「“婦人科は妊娠したら行く場所”といった思い込みを解放し、症状に悩む女性が気軽に受診できる環境を実現したいですね。女性は生涯を通して女性ホルモンの影響を受けますから、軽い症状でも気軽に相談できるよう、婦人科医をかかりつけ医にしてほしいと思っています」
女性が生きやすい社会には、男性の理解や協力も欠かせません。
「夫やパートナーや男性の友人など、身近な男性に生理や更年期の不調について話してみて。女性の心身のゆらぎへの理解が深まり、良い意味での社会の変化につながります」
笹尾さんは“家族はチーム”だと語ります。
「たとえばスポーツのチームなら、お互いに助け合ったり、場合によっては役割が変わったりするのが当然。社会においては、家族もひとつのチームです。それなのに、家の中では“家事や育児は妻がやるもの”という空気が当たり前になっていることが多く、女性の負担は大きいままです。ときには家族の中で男女の役割を変えてみることも、より生きやすい世界の実現に大きく役立つと思います」
女性の健康についての知識を深め、身近なところから変える意識を持つことが、すべての人が幸せに過ごせる社会へと続いていきます。
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雑誌『からだにいいこと』では、「フェムテック」にまつわる連載を掲載。誌面でも、みなさまに役立つ情報をお届けします。
2024年2月号誌面でも、笹尾さんのインタビュー記事をお読みいただくことができます。ぜひご覧ください!
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取材・文/熊谷あづさ イラスト/桃色ポワソン
[ 監修者 ]