イヤな気分を長引かせない「気持ちの切り替え方」のコツって?
ネガティブな感情で落ち込み、イライラ……。家庭、仕事、恋愛などで、負の気持ちを早く手放したいと思った経験はありませんか? イヤな気分を長引かせない、上手な気持ちの切り替え方を公認心理師に聞きました。
目次
気持ちの切り替えが必要な理由
私たちは誰でも、ポジティブな気持ちもネガティブな気持ちもあるのは当然で、気持ちの切り替えが完璧にできる人は多くありません。しかし、ネガティブな気持ちを引きずっていると「早く切り替えなければ」と漠然とした焦りを感じることも。
そもそも気持ちの切り替えはなぜ必要なのでしょうか?
イヤな気持ちを引きずりすぎると、次のようなデメリットがあります。
脳が休まらずイライラする
イヤな気持ちを持ち続けると、体を休めても頭でぐるぐると考えてしまい脳が疲れます。休みの日に横になっても頭がすっきりしないのは、脳がずっと思考を続けていることが原因かもしれません。
体だけではなく脳を休めるのも、生きるうえでは大切なこと。イライラや気分の落ち込みが長引くと、脳の疲れはなかなか取れなくなってしまいます。
行動や人間関係にも影響が
感情のバランスが崩れると、やがて自分の行動にも悪影響が出てきます。
イライラして家族や友人に強く当たってしまったり、気分が落ち込み何も手につかなくなってしまったりした経験はありませんか?
感情を引きずることによって、普段の自分とは違ったふるまいをしてしまうことも。生活リズムが崩れたり、思わず口走った一言のせいで人間関係がこじれたりと、日常生活に支障が出てしまう恐れもあります。
メンタルアップマネージャ(R)の大野萌子さんが、ストレスをためない上手な人づきあいを教えてくれる連載。第8回のテーマは、「言いづらいことを上手に伝えるテク」です。「こう言ったらどう思われるかな…」と、発言を我慢してしまうことはありませんか? 言いたいことを伝えられると、心のモヤモヤがスッキリ! ストレスを溜めない伝え方を教えてもらいました。
あまりに切り替えがうまくいかないと心身のバランスを崩すことも
「心身相関」という言葉があるように、心と体は影響し合っています。
気持ちの切り替えがうまくいかない状況が長引くと、行動だけでなく体に不調が出る場合も。さらに体調の悪さから気持ちの落ち込みが激しくなるなど、心と体が互いに影響し合って悪循環を引き起こすことも考えられます。
気持ちの切り替えが苦手な人の特徴
人の考え方のクセには、「比較的安定していて変わりにくいもの」と「スキルとして学習して身につけられるもの」の2種類があります。「こんな項目に当てはまったら切り替えが苦手な性格」など、はっきりと特徴を区別できるものではありません。
感情との付き合い方や物事をどう捉えるかは、これまでの経験や置かれている環境が強く影響しています。
特に気持ちの切り替えが苦手なのは“HSP”?
気持ちの切り替えが苦手なことと、“繊細さん”ともいわれるHSPとの関連を気にする人もいるのではないでしょうか。
HSPとはHighly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)の略であり、人よりも繊細な気質を指します。繊細で感受性が強いことから、社会での生きづらさを感じやすいとされています。実際にHSPの人たちは、気持ちの切り替えが苦手という一面もあるようです。
とはいえ、落ち込みやすさや繊細さは、程度の差はありますが誰しもが持ち合わせているものです。気持ちの切り替えが苦手だからといって、生まれ持ったHSPのせいだと結論づけてしまうのは少し気が早いかもしれません。
HSPは変わりにくい気質ですが、気持ちの切り替えの得意・不得意はどちらかというと、これまでの人生で身につけてきたものです。自分自身で「変えたい」と思い行動を起こせば、少しずつ修正していくことができますよ。
人付き合いが苦手、細かいことが気になって疲れる……それはHSPとも呼ばれる、“敏感気質”のせいかも? そんな自分の繊細すぎる気質とうまく付き合って、ゆったり楽に生きる方法を教えます!
気持ちの切り替えが難しい場面
気持ちの切り替えが難しいと感じる場面は十人十色。しんどさを感じる人間関係があるとイヤな気持ちを引きずりやすくなります。
現代の女性はさまざまな役割で忙しく、場面ごとに次のような人間関係の悩みがあります。
- 家庭:夫婦関係の理想と現実とのギャップ、子育ての悩み。
- 職場:会社での評価、同性同士の人間関係、上司との折り合いの悪さ。
- 友人関係・恋愛:言いたいことが言えない、人に合わせすぎてしまう。
どこか1カ所で人間関係のひずみが起きると
- 怒りっぽくなる
- 何でも被害的に受け止めてしまう
など、受け止め方のクセが変わることがあります。このような受け止め方のクセは、ほかの人間関係にも影響することもめずらしくありません。
イヤな気持ちは“感情別”で切り替え方を変える
長引きやすいイヤな気持ちのうち、代表的なものは「怒り」「悲しみ」の2つ。実は、この2つの感情には、それぞれ適した“切り替え方のコツ”があります。
ネガティブな気持ちと上手く付き合うため、知っておきたい対処法を解説します。
怒りはヒートアップするのを避ける
怒りの感情が鎮まらないと、人に強く当たってしまったり、自分を傷つけたりと、人間関係や日常生活に影響が出るケースがあります。
怒りの感情を切り替えるポイントは、「鎮める」ことと「距離を取る方向に行動する」ことです。
具体的に、怒りの感情を長引かせないための方法をいくつか紹介します。
怒りのきっかけに触れない仕組みを作る
怒りがヒートアップしているときに、自分で心を鎮めるのは難しいもの。そもそも怒りの引き金となるのは何か探ってみましょう。
例えば
- 夫婦で趣味にかけるお金や時間の使い方の意見が合わず、腹を立てている
- 職場でいつも小言をいう同僚にイライラしている
怒りの引き金がわかったら、きっかけとなるものから距離を取る、環境ごと離れることを検討してみてください。
怒り方のレパートリーを増やす
怒りを「抑える」方向に意識が向きがちですが、状況によっては怒ることが当然の場合も考えられます。そこで意識したいのは、怒り方のレパートリーを増やすことです。
どんなに怒りを伝えたくても、感情に任せて自分のことばかり主張しては、相手に対して言いたいことがうまく伝わりません。そんなときは、何がイヤだったのかを声を荒げず伝えてみてはいかがでしょう。適切な怒り方をすれば、人間関係を崩さず状況が改善する可能性も高くなります。
悲しみからは距離をとって切り替える
悲しみが長引くと、行動をおっくうに感じて引きこもりがちになったり、悲観的になったりすることがあります。
マイナスな思考ばかりがぐるぐると巡りやすいので、負のスパイラルを止める行動をしてみましょう。
悲しみを長引かせる行動を控える
意外に思うかもしれませんが、悲しみを感じているとき、自ら悲しみを持続させる行動をとってしまっている人が多くいます。
例えば、誰かの言葉に傷ついたとき、その言葉を何度も頭の中で考えていませんか? また、大切な人との別れのあと、思い出を振り返ることでよけいに悲しくなった経験がある人も多いのではないでしょうか。
上手く切り替えるには、悲しみを長引かせる行動に自分で気づき、控えることが第一歩となります。
思い出のものは整理する
写真や手紙など、特定のものから思い出が連想され、悲しみからの切り替えが難しいときは、思いきって整理整頓することが有効です。
- 思い出のものを片付ける
- 写真を整理する、手放す
少しずつでもいいので、悲しみを長引かせるものと距離をおいてみましょう。少しずつ気持ちの切り替えがしやすくなっていくはずです。
部屋をきれいにしようと決意したものの、実際に片付けはじめようとすると、汚すぎる部屋に尻込みしてしまいませんか? 今回は、長い間片付けせずに放置した汚部屋を、整理整頓するコツを紹介します。
喜びなどポジティブな気持ちは切り替え不要?
気持ちの切り替えが必要と感じる場合は、怒りや悲しみが主に連想されます。でも実は、喜びや楽しみなどのポジティブな気持ちも度が過ぎると生活に影響が出るのです。
自分では気づきにくいですが、浮かれるあまり周囲や現実とのギャップが生まれているようなら気持ちの切り替えが必要かもしれません。
マイナスな気持ちもプラスな気持ちもあるのは当然ですが、日常生活に支障が出る場合は感情の振れ幅をゼロに近づける意識を持ってみましょう。
今すぐできる気持ちの切り替え方法
ずっとイヤな気持ちを引きずってしまっている、そんなときに試してほしい気持ちの切り替え方を紹介します。
人によって合う方法が異なりますので、ひとつダメだったからといって落ち込まず、気軽にたくさんの方法を試してみてください。
もちろん、ここで挙げる例を参考に自分なりの切り替え方を試してみるのもOKです。
自分の気持ちに気づく
自分の気持ちに具体的に気づけている人は意外に少ないものです。同じ出来事でも、人によって捉え方と現れる感情は異なり、大きく「怒り」と「悲しみ」に分類できます。
例えば友人に言われた心ない一言でイヤな気分になったとします。この場合も、捉え方次第で異なった感情が生まれるのです。
- バカにされたと感じた、許せないと思った → 怒り
- 嫌われたと感じた、傷ついた → 悲しみ
自分が抱えているイヤな気持ちについて細かく分解して考え、奥底にある本当の感情に気づくことから始めてみましょう。
- イヤな気持ちは具体的にどんな気持ち?
- 誰に何をされたことで気持ちを引きずっている?
- 人間関係や日常生活にどんな支障が出ている?
自分の心にこれらの問いを投げかけ、感情や出来事を具体的に思い浮かべることができればOK。感情や状況に応じた適切な対処がしやすくなります。
気持ちに気づけるようになると、多くの人は自然と感情をコントロールできるようになっていきます。まずは、自分の感情と向き合うことから始めてみましょう。
体を動かす
イヤなことを頭でぐるぐる考えてしまって切り替えられないなら、体を何かに夢中にさせることが効果的です。体が忙しくなると、脳はその動きに集中するのでイヤなことを考え続けるのが難しくなります。
- その場でスクワットをする
- 近所を散歩する
- テレビから聞こえてくる音をそのまま口に出してみる
気持ちが落ち込んでいるときは、何ごとも億劫に感じてしまうものです。しかし、面倒だと感じながらも体を動かしてみることで、頭が空っぽになってよい気分転換になるでしょう。
怒りの対処にはやや激しい動きを
怒りを切り替えたいなら、次のように少し激しい動きで発散するのがおすすめです。
- 紙をビリビリ破く
- 全力でダッシュする
- 今の気持ちを紙に書きなぐる
心と体はつながっているので、体を動かすことで心のモヤモヤにも働きかけ、なかなか切り替えられなかった負の感情を晴らすことができます。
思考を断ち切る
目の前のことに集中したいのに、別のことが頭に残り続けてしまうときは、「思考を断ち切る行動」をしてみましょう。
例えば、同じことを考え続けていることに気づいたら、腕につけた輪ゴムをパチンとはじいてみましょう。これが「思考をストップさせる」合図となります。またしばらくして、同じループに陥ったら、その都度輪ゴムをはじき思考を中断させることを繰り返します。
この「合図」は、自分が取り入れやすいものなら何でもOK。輪ゴムをはじく以外にも、手を叩いたり、声を出したり、自分に合うものを探してみてください。
マインドフルネスに挑戦する
マインドフルネスは「今、ここ」に意識を向けるメソッドです。感情的になっている自分の心に少し距離を置いて、広い視野に意識を向けるトレーニングになります。
座って瞑想
マインドフルネスのなかでもメジャーな手法の一つに「瞑想」があります。 瞑想といっても難しく考える必要はありません。静かな場所に背すじを伸ばして座り、呼吸に集中していきます。初めのうちは、長い時間瞑想をするのは難しく感じるかもしれませんので、1分など短い時間から始めてみましょう。
ボディスキャン
仰向けになり、「足先、太もも、お腹、手の先、頭……」と、体のパーツ一つひとつに順番に意識を向けていくマインドフルネスの方法です。
直接体に触れるわけではありませんが、意識を悩みごとから遠ざけて体の一部に集中させることで、次第に脳が休まる感覚を味わうことができます。
ストレス軽減などに効果的な「マインドフルネス」。取り入れたいけどどうすればいい? そこで、初心者でも簡単にマインドフルネスを体感できる、呼吸法をご紹介します。
気持ちの切り替えを上手くできるようになるには?
気持ちの切り替えが苦手なのは考え方のクセが影響しているとお伝えしました。考え方のクセを少しずつ修正し、イヤな気持ちも上手く切り替えられるよう意識したいことを解説します。
そもそも「なぜ気持ちを切り替えたいのか」に気づく
気持ちを切り替えるうえでいちばん大切なのは「気づき」です。考え方のクセや実際に起きていることに、気づく練習をしてみましょう。
- どのような行動や考え方のクセがある?
- 日常生活にどんな支障がある?
- どう改善したいのか?
頭で考えるだけでなく、紙に書いて整理すると、より客観的に自分の気持ちと向き合えるのでおすすめです。
いつもの行動を変えてみる
気持ちを切り替えたいと思いながらも、なかなか切り替えられないのなら、先に行動を変えてみるのもひとつの手です。
例えば、落ち込んだときは家の中に引きこもりがちに。いつもソファに寝転んでスマホをいじってしまうのなら、感情を引きずったままでも良いので散歩に出かけてみましょう。
「どうせ何をしても変わらない」とネガティブに思っていても、実際に動いてみると、心が体に引っ張られて気分が変わることも。行動のレパートリーを増やすなかで、「イヤな気持ちがまぎれた」と感じられたら大成功です。
こうした成功体験を繰り返すうちに、少しずつ切り替えやすくなっていきます。
気持ちを伝える努力が必要な場面も
人間関係や状況によっては、単に気持ちを切り替えたり我慢したりするだけでは状況が改善せず、結局同じことの繰り返しになりがちです。
こうした場合、
- 相手にどうして欲しいのか
- 何を理解してほしいのか
を改めて考えて、解決に向けて動いたほうがよいケースもあります。
例えば夫婦などの長期的な関係について考えてみましょう。
- 夫が家事や育児に協力してくれない
- 子どもの教育方針について悩んでいる
このような場合、気持ちを抑えてばかりではしんどさ自体を解消することはできません。気持ちを整理して、必要であれば相手に「どうしてほしいのか」を正しく伝えることも検討してみてください。
雑誌『からだにいいこと』との連動企画である本連載。臨床心理士の玉井仁さんが、読者のみなさんのお悩みを通し、「ラク」に生きるための考え方・コツなどをお伝えします。今回のテーマは「価値観の違い」です。
気持ちを切り替えたいと思いつつも上手くいかない人へアドバイス
気持ちの切り替えが上手くいかないと、焦りを感じることがあります。しかし、心の上がり下がりは誰にでもあって当然のもの。感情すべてを我慢すべきというわけではありません。
切り替えなくて良いこともある
イヤな感情は「早く切り替えないと!」と思いがちですが、実はそのままでいい場合もあります。
例えば、1,000円落としてしまったと想像してください。このとき、“1,000円分”落ち込むことはごく正常な心の反応です。この場合、マイナスな気持ちがあっても、切り替えを焦る必要はありません。
しかし、1万円を落としたかのように深く落ち込み、暗い気持ちがずっと続くのはどうでしょう。マイナスな感情が人間関係にも影響し、誰かにやつ当たりするなど、日常生活に支障が出てしまうかもしれません。
怒りや悲しみに対し、生活に支障の出ない範囲で心が動くのは当然のこと。一方、必要以上に大きく沈んだり、長引いたりする場合は、誰でもある感情だからといって放置せずに対処していく必要があります。
一人で悩まず誰かに相談を
気持ちを切り替えるのは簡単なものではありません。ひとりで考えるとイヤな感情から抜け出せず、しんどさは続いてしまいます。抱え込みすぎず、家族や友人に話したり、近くのカウンセラーや心療内科に相談したりするのもひとつの手段として考えてみてください。
カウンセリングはハードルが高く感じられるかもしれませんが、あなたに合った気持ちの切り替え方を提案してもらえるかもしれません。
まとめ:気持ちを切り替えるコツは自分の気持ちに気づくこと
「ぐるぐるとイヤな気持ちを引きずってしまう」「気持ちが沈んで行動や体調にも悪影響が出る」。そんなときの気持ちの切り替え方を公認心理師の岡村さんに聞きました。
今すぐイヤな気持ちを切り替えるには、体を動かし頭で考える暇をなくすこと、マインドフルネスなど、さまざまな方法があります。人によって合うものが異なるので色々な方法を試してみてください。
気持ちを長引かせず、悪循環に陥りがちな思考を根本的に修正していくには、考え方のクセに「気づく」ことから始めましょう。気づくことで、気持ちや行動を少しずつコントロールし修正する意識を持つことができるはずです。
[ 監修者 ]