感情の浮き沈みが悩み。メンタル不調との付き合い方を教えてください|教えて! 山村菜実先生
女性特有のお悩みに医師が答える連載。回答者は、優しく丁寧なカウンセリングで人気の東京美容クリニック理事長、山村菜実先生です。今回は女性特有のメンタルの不調について教えてもらいました。
目次
コントロールできない感情の浮き沈みがあります

いつもならこれほど気持ちが落ち込むことはないのにネガティブに考えてしまう、でもしばらくするとポジティブで元気になっている。ちょっとしたことでイライラしてしまう、など、女性にはホルモンバランスによって精神神経症状が出ることがあります。
産婦人科医で、表参道にある美容医療専門クリニックの東京美容クリニック理事長でもある山村菜実先生に、女性ホルモンによる不調について、考え方やご自身の対策についても伺ってみました。
女性ホルモンについて知ろう
まず、女性のからだのしくみを説明するにあたり、女性ホルモンから解説します。女性ホルモンは、初潮・妊娠・出産・閉経の段階に応じて、女性の心身の健康にも大きな影響を及ぼします。女性ホルモンには、主に女性の卵巣から分泌される、「エストロゲン」と「プロゲステロン」の2種類があります。
エストロゲン(卵胞ホルモン)は美人ホルモン?

エストロゲンは卵胞から分泌されることから、別名「卵胞ホルモン」ともいいます。血管や骨などを健康な状態に保ち、髪や肌のうるおいを保つコラーゲンの生成を促進することから「美人ホルモン」とも呼ばれます。エストロゲンは20代で最も多く分泌され、40歳を過ぎるころには、卵巣機能の低下により分泌量が減り、閉経後は急激に低下します。閉経の前後10年間が「更年期」と呼ばれますが、ホルモンバランスが急激に崩れることで、心と体に不快な症状があらわれやすくなります。
エストロゲンの働き
・子宮内膜の増殖
・乳房の発育を促す
・肌の潤いやハリを保つ
・月経周期の調整
・気分の浮き沈みを抑える
体内ではたらくホルモンは100種類以上! 常に新しいホルモンが発見されていて今後も増えてい…
妊娠準備のためのプロゲステロン(黄体ホルモン)

プロゲステロンは黄体から分泌されることから、別名「黄体ホルモン」ともいわれます。排卵直後から分泌量が増え、基礎体温を上げて、受精卵が着床しやすいように子宮内膜を安定させ、乳腺を発達させる働きもあることから、妊娠準備のためのホルモンともいえます。妊娠が成立しなければ、排卵の1週間後からプロゲステロンは減り始めます。さらに1週間ほど経つと、妊娠のために厚くなっていた子宮内膜がはがれる月経となります。
プロゲステロンの働き
・基礎体温を上げる
・子宮内膜を安定させる
・乳腺を発達させる
・利尿作用に関わる
毎月変動する女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロン
約1カ月の間にもエストロゲンとプロゲステロンの分泌量は大きく変動し、この変動が女性の心や体に影響します。特に月経前の黄体期には、エストロゲンとプロゲステロンが急激に増加→減少するため、PMS(月経前症候群)と呼ばれる不調があらわれやすくなります。

毎月の心身の不調はPMS(月経前症候群)かもしれません

質問者さんが、もし毎月のように定期的にメンタル不調になるのであれば、PMSの可能性があります。PMSは月経のある方は誰にでも症状が出る可能性があります。また、年齢を重ねることで症状が強くなっていく傾向があるようです。
毎月の不調があるようでしたら、自分の体調を把握するために基礎体温をつけるのをおすすめします。高温期に不調が多ければ、この期間に大切な予定を入れないようにすることや、不調になる期間までにやらなければいけないことを終わらせておくなど計画することも一案です。それでも大変な場合は、婦人科を受診してもらえれば、以前の記事にも書きましたが、低用量ピルでホルモンバランスを整えたり、漢方薬の処方などの治療もあります。
もし、低温期と高温期の2層に分かれない場合は、ホルモンバランスの乱れや生理不順の可能性もありますので、放っておかないで、婦人科を受診して相談してください。生理不順を放っておくと、不妊になったり、病気のリスクを上げてしまう可能性もあります。
神戸にある漢方相談薬局「CoCo美漢方」田中友也さんが、“季節の養生法”をお届けする連載。…
閉経前後10年間にあてはまるなら更年期の不調の可能性も
質問者さんは年齢的に更年期障害ではなさそうですが、更年期が近づくと女性ホルモンのバランスが崩れて、生理周期が短くなったり生理の量が変わってしまうので、その時期も心身が不安定になりがちです。こちらの記事で更年期について書いているので、当てはまる方は参考にしてください。
女性ホルモンバランスの乱れによる症状は?

冒頭にも述べましたが、女性は月経が始まってから、妊娠期・出産・閉経前後まで、長期に渡り、女性ホルモンに体調を左右されています。具体的には、次のような不調を抱える患者さんがいらっしゃいます。
女性ホルモンによる身体症状
腹痛、頭痛、腰痛といった痛みの症状、お腹の張り、便秘、乳房の張り、肌荒れ、むくみなど
女性ホルモンによる自律神経症状
めまい、のぼせ(ホットフラッシュ)、倦怠感、微熱など
女性ホルモンによる精神症状
イライラ、情緒が不安定になる、気分が落ち込む、攻撃的になる、集中力の低下など
女性ホルモンの乱れは、身体的にも精神的にも、さらには自律神経からも不調が出てしまいますが、上手に付き合っていくためには、ご自身の体の状況を把握して、症状を理解し、病院で治療をしたり、セルフケアでなるべく穏やかに生活ができることを目指しましょう。
ホルモンバランスを整えるおすすめのセルフケア
女性ホルモンのバランスを整えるには、まず生活のバランスを整えることから。基本的な生活の主軸となる次の3つを意識しましょう。栄養バランスのとれた食事・睡眠・適度な運動です。
睡眠は体を回復させるリセット時間

特に睡眠は大切です。厚生省でも6時間以上の睡眠を推奨していますが、私はどれだけ忙しくてもなるべく7~8時間は確保するようにしています。寝ることで体調が整います。
就寝時間の3~4時間前には食事を終えて、1~2時間前からブルーライトは避けて、ぬるめのお風呂に入って寝る準備をします。寝る時の習慣づけがあるといいでしょう。例えば、本を読んだら寝る、軽いストレッチをしたら寝る、アロマを焚いて寝る、など、ルーティーン化すれば、体が休む準備を覚えてくれます。
幸せホルモン「オキシトシン」を増やす
長年、女性ホルモンの波に飲み込まれて不調に翻弄されてしまう私たちですが、少しの工夫で幸せホルモンともよばれるオキシトシンを増やすことはできます。オキシトシンとは、脳の視床下部から分泌されるホルモンで、神経伝達物質でもあります。出産や授乳時の母性行動に関わるホルモンで、スキンシップをとる、愛情を感じる、人とコミュニケーションをとる、といった時に分泌されます。次に紹介しますので、できるところから試してみてください。
スキンシップ・セルフマッサージ

私たちは、体の痛いところがあると手でなでたりさすったりしますよね。また、不安や恐怖を感じた時には、左右の腕を触り自分を抱きしめる姿勢になりませんか? これは体に手を当てることによってオキシトシンが分泌されるからです。子どもの頭をなでたり、パートナーを抱きしめたり、自分自身に触れるマッサージなども大切なスキンシップです。人間でなくペットとのスキンシップも同様です。
セカンドパーソン・セルフトーク
セカンドパーソン・セルフトークとは、自分に対して「二人称」で話しかけるというメンタルケアのひとつです。落ち込んでいる時や不安に襲われている時に効果的です。これは、米国ミシガン大学の研究で、ストレスや不安を解消する効果があると発表されています。
普段、「今日は仕事で失敗しちゃった」「最近家事がいい加減だ」など、一人称でつぶやくことがあるかと思いますが、それを二人称に変えます。その際、あなたを心から愛してくれて、やさしくなぐさめてくれるイメージをしましょう。
「今日は仕事で失敗しちゃった」
→「今日は仕事量が多かったから仕方ないよ。少しくらい失敗しても明日からまた誠実に向き合って頑張ればいいよ。」
「最近家事がいい加減だ」
→「仕事と家事を両立していること自体がすごいよ! 100%できる人間なんていないんだから。時間があるときにできればいいよ。」
落ち込んだり、不安にさいなまれている時も、今の状況を俯瞰で見てみると、それほど悩み込む必要はないと気づいたり、そうしたら次回はこうしよう! と次の判断ができたりするものです。
友達とおしゃべりする

共感できる相手と一緒に時間を過ごすことでも、オキシトシンが分泌されます。最近、気持ちがギスギスしているとか、気分が上がらないというときは、気の置けない友人をお茶に誘ってみましょう。
推し活をする
好きなアーティストやキャラクターの情報収集をしたり、応援する「推し活」も、オキシトシンを増やす効果があるといわれています。推し活をすることで幸せになれるだけでなく、日常生活が充実し、疲労感が緩和されたりイライラが抑えられるという効果もあるそうです。
以上に挙げた他にも、ボランティア活動や、ヨガ、瞑想、アロマの香りをかぐなど、幸せホルモンを増やしてくれる効果があります。
女性はホルモンバランスの影響によって、うまく自分の体調をコントロールできない時期がたくさんあります。セルフケアで自分のご機嫌をとってみたり、それでもダメで生活に支障をきたす場合は婦人科へ相談して治療を受けたりと、選択肢を広げてみてください。
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山村菜実先生への質問を募集中!
この連載では、産婦人科専門医で美容クリニック理事長でもある山村菜実先生への質問を受け付けます。ご応募いただいた質問の中から選ばせていただき、連載の中で山村先生からお答えします。
産婦人科や美容医療に関するお悩みや質問をぜひお寄せください!
[ 監修者 ]
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