
漢方生薬で一人ひとりに合った根本治療を|名医図鑑#7
東京・広尾にある「K.Clinic HIROO」は、日本伝統の漢方生薬治療と現代医学を組み合わせた幅広い診療を行うクリニックです。「未知の病気の治療にこそ、漢方薬の力が発揮できる」と話す院長の鈴木邦彦先生に、新しい医療への取り組みについてうかがいしました。(取材日 2025年6月6日)
目次
薬剤師だった父親の言葉に後押しされて|鈴木邦彦先生

医師を目指したきっかけは?
実家は仙台で祖父の代から続く老舗の薬局で、父親に代替わりしてからは漢方薬も取り扱っていました。私も幼い頃から漢方薬に慣れ親しんで育ったため、家業を継いで薬剤師になろうと考えていたんですが、父親から「漢方薬を用いた医療に携わるなら、医師の立場から広く漢方薬を処方する道に進んでほしい」と勧められたんです。当時、漢方薬は薬局で提供されることがほとんどでしたが「多くの医師が漢方薬を処方する時代が必ず来るから」と。それで、医師を志すことにしました。漢方専門医になるには医師免許取得後、さらに漢方医学の専門知識を身に着ける必要があるのですが、医学部入学前から漢方医を目指している人なんて、私くらいでしたね。
漢方専門医と一般の医師との違いを教えてください
一般の医師は現代医学的な病名に適した漢方薬を処方するのに対し、漢方専門医は望診(ぼうしん)、聞診(ぶんしん)、問診、切診(脈診、腹診)という漢方医学独特の診察法に基づき、患者さん一人ひとりの体質や状態=「証(しょう)」を判断し、漢方薬を処方します。月経困難症に処方する「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」を頭痛、めまい、むくみの改善目標に処方するケースなどは日常的にあります。私のクリニックでは生薬を使用し、体全体のバランスを整え、自然治癒力を高めることを目指し、治療を勧めます。また、個々の生活スタイルを伺い、食事や生活習慣など、養生法についても指導いたします。
北里研究所漢方鍼灸治療センターでの仕事内容は?
私が勤務し始めた30年ほど前は難治の膠原(こうげん)病や重症の気管支喘息、アトピー性皮膚炎といった、現代医学の治療では十分な効果が得られなかった患者さんに対し漢方治療を行うことがとても多かったですね。また、1997年には日本初の「冷え症外来」を開設し、臨床研究と実地の臨床を交えて、たくさんの冷え症患者さんの治療にあたりました。近年では新型コロナウイルス感染症の後遺症でお悩みの方への漢方治療も行っていました。
漢方生薬治療と免疫治療で“守るがん治療”を

クリニックを開業したきっかけは?
これまで、現代医学では十分な対応ができなかった難病に対して漢方治療で一定の効果を上げることができたものの、がんに関しては太刀打ちできない部分もありました。そんな中、縁があって、理化学研究所のNKT細胞研究チームと知り合い、NKT細胞を活用したNKT細胞標的治療と、漢方薬による内服治療を組み合わせた新しいがん治療を提供できるようになりました。日本においては、手術療法・抗がん剤治療・放射線を使った“攻めの治療”が主流ですが、“守りの治療”も普及させていきたいという思いから開業に至りました。
クリニックの特長を教えてください
良質な生薬を使用している点ですね。漢方薬はよい素材があってこそ、高い効果が期待できます。クリニック内に調剤室を設け、品質管理に精通した漢方専門薬剤師が選別を行っています。患者さんの体質や症状に合わせて生薬を調合し、オーダーメイドの漢方薬を提供しているので、例えば同じ婦人科系の症状でも、冷えの程度などによって配合する生薬を調整することができます。また、オンライン診療も行っているので、全国各地からご相談いただけます。
高度な専門知識と技術を後世へ
患者さんはどんな方が多いですか?
婦人科系の症状と漢方薬の相性がよいということもあり、女性の方が多いですね。近年は、男性の更年期も注目されるようになってきたので、男性の方にもぜひ漢方薬をご活用いただきたいと思っています。
記憶に残っている患者さんは?
40代後半の冠攣縮(かんれんしゅく)性狭心症の女性患者さんですね。30歳くらいから循環器内科で投薬治療を続けていたんですが、なかなか胸の痛みや発作がよくならず、漢方治療も並行して行うことになりました。「栝蔞薤白半夏湯」(かろうがいはくはんげとう)という煎じ薬を処方したところ、わずか数日で胸の痛みが和らいだんです。発作の回数も減り、数カ月後にはもともと飲んでいた現代薬の服用が必要なくなるまでに回復されました。一般的に循環器疾患は診断・治療が明確で、漢方治療の出番はあまりないのですが、症状によっては漢方薬も有効であることを経験させていただいた、印象深い治療例となりました。
今後の展望は?
日本の伝統医学である漢方の素晴らしさを、若い世代の先生方に伝えていかなくてはならないと思っています。漢方専門医はたくさんいますが、私のように漢方生薬治療を行う医師は年々少なくなっているんです。たとえば、新型コロナウイルスのような未知の病気は、病気としてその詳細が明らかになっていないと現代薬では治療ができません。一方、漢方薬は、漢方医学理論に基づいてその方の体調のアンバランスを整えていくので、今後また別のウイルスが流行したときに、漢方が有効な手段となる場面はたくさんあるでしょう。ぜひ若手の先生方に来院いただき、私の技術を学んでほしいと思っています。
日頃、取り入れているメンタルケアは?
食養生ですね。漢方では漢方薬を飲む以前に、生活習慣に気をつけること、つまり養生がとても大切なんです。食事、運動、睡眠といろいろありますが、私はもともと胃腸が弱いということもあり、体が冷える食材は極力取らないようにしています。体を冷やす三大食材は、生野菜、果物、乳製品。とくにこれからの季節は注意が必要です。漢方は「気の医学」と言われていて、体の気の巡りをよくすることが重要と考えられています。体が冷えると免疫力が落ち、気の巡りも悪くなってしまうので、ぜひみなさんも意識してみてください。
K.Clinic HIROO|鈴木邦彦先生

K.Clinic HIROO
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TEL:03-6277-2554
診察時間:10:00~12:00、13:30~17:30
月曜、金曜午後、土曜午後、日祝休
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