「風邪のひきはじめ」の過ごし方は?東洋医学の正しい対処法|田中友也さん 季節の養生法
神戸にある漢方相談薬局「CoCo美漢方」の田中友也さんが、“季節の養生法”をお届けする連載。今月は、「風邪のひきはじめ」がテーマ。「風邪かも?」と思ったら、すぐにやるべき東洋医学の正しい対処法を紹介します。
目次
風邪の原因は外から侵入してくる邪気(じゃき)
なんとなく熱っぽい、鼻水が止まらない、ゾクゾクしてきた…。忙しい日常で、急に風邪の症状があらわれると「休めないのにどうしよう!」と、焦りますよね。風邪は、ひきはじめの対処が肝心です。
東洋医学で風邪は、体の外から「邪気(じゃき)」が侵入して起こると考えられています。外から悪さをしてくる邪気はいくつかあり、風邪(かぜ)に関係しているのが、「風邪(ふうじゃ)」と呼ばれる邪気です。
風邪(ふうじゃ)は、寒気が出たと思ったら急に熱が上がるなど変化が早く、鼻やのどなど複数の場所に症状があらわれるのが特徴です。
そのほか最大の特徴が、熱による邪気の「熱邪(ねつじゃ)」と、寒さによる邪気の「寒邪(かんじゃ)」を引き連れて体に侵入してくること。風邪(ふうじゃ)は、他の邪気まで仲間にしてしまう、顔の広い“悪質な邪気”なのです。
あなたの風邪は熱タイプ? 悪寒タイプ?
一般的な風邪には二つのタイプがあり、風邪(ふうじゃ)が引き連れてきた邪気が、「熱邪」か「寒邪」かによって異なります。風邪(かぜ)のタイプに合う対処をすれば早く良くなりますが、反対にタイプに合わない対処法では症状が悪化する場合があります。
高熱が出る「風熱(ふうねつ)タイプ」
一つは、熱邪が侵入してきて高熱が出る「風熱(ふうねつ)タイプ」。熱以外に、のどが赤く腫れて痛い、鼻水や痰が黄色っぽくてネバネバしている、口やのどが渇くなどの症状があらわれます。
風熱タイプは、熱邪が原因なので体を温めるのは逆効果。ドラッグストアでも購入できる葛根湯には体を温める生薬が含まれているため、高熱がある場合は服用を控えましょう。体を冷やして熱を下げる対処法を。
ゾクゾクした悪寒が続く「風寒(ふうかん)タイプ」
もう一つは、寒邪が侵入してきて悪寒が出る「風寒タイプ」。ゾクゾクして寒気がする、水っぽい鼻水がダラダラ止まらない、手足が冷える、首や肩がこわばるなどの症状があらわれます。
風寒タイプは、寒邪が原因なので、厚着をして体を冷やさないようにするなど、体を温めるのが正解。このタイプの初期の風邪には、葛根湯がよいでしょう。
風邪のひきはじめは、まず熱の風邪なのか、寒さの風邪なのかを見極めてから対処しましょう。

「風邪のひきはじめ」にいい正しい過ごし方と対処法
「風邪は万病のもと」といわれます。「鼻水だけだから大丈夫」「微熱くらいで休めない」と、初期の段階で無理をすると次第に悪化して、治るまでに時間を要します。
風邪はひきはじめの対処が重要。東洋医学の視点で、正しい過ごし方を解説します。
【1】寝て体のバリア機能を回復させる
優先したいのがぐっすり寝ること。東洋医学では、「衛気(えき)」と呼ばれる体を守るバリア機能が不足すると、邪気が入りやすくなると考えられています。
バリア機能を回復させ、体を構成する大切な要素である「気・血・水」のバランスを整えるために、風邪のときの睡眠はもっとも重要です。
一般的な風邪であれば、2~3日休めば自然と快方に向かいます。1日寝た程度では完全には良くならないことが多いので、数日間しっかり寝ることを心がけましょう。風寒タイプは、布団をしっかりかぶって体を温め、ゆっくり休んでください。
【2】風熱タイプは熱を冷ます食べ物、風寒タイプは体を温める食べ物を
風邪のときに食べ過ぎると、消化にエネルギーが使われてしまうため、消化の良い食事をとります。おかゆやスープなど、あっさりしたものをいただきましょう。
風熱タイプ、風寒タイプにおすすめの食べ物、ドリンクを紹介します。症状があっても食事ができそうな場合は、参考にしてみてください。
【風熱タイプ】
大根、ごぼう、梨、柿、柚子、りんご、緑茶、菊花茶など。主に熱を冷ます食材をとりましょう。
風熱タイプは、大根を1cm程度の角切りしてはちみつに浸けた「大根飴」もおすすめです。染み出した大根飴の汁をお湯で割って飲むと、喉の痛みを抑えてくれます。
【風寒タイプ】
ねぎ、しょうが、にんにく、ミョウガ、シソ、パクチー、玉子酒(日本酒に卵を入れて温めた飲み物)など。主に体を温める食材をとりましょう。
【3】ツボ押しやツボ温めでセルフケア
背中には「風門(ふうもん)」というツボがあり、ここから風邪(ふうじゃ)が出入りすると考えられています。
風寒タイプは、体に入った風邪(ふうじゃ)を追い出すために、ツボをドライヤーで温めるのが効果的です。
風門:背中の上の方で肩甲骨の間にあるツボ。首を下に曲げたときに一番出っ張る背骨から、3つ下の背骨を探し、そこから左右外側に指2本分移動した場所。
温め方:ドライヤーで心地いいと感じる程度、温めます。熱めのシャワーを当ててもOK。

一方、風熱タイプは、熱をとる働きのある「曲池(きょくち)」のツボ押しがおすすめです。
曲池(きょくち):ひじを曲げたときにできる、シワの外端にあるツボ。
押し方:反対側の手でひじを包み、親指でイタ気持ちいい強さでじんわり押します。

風邪のひきはじめに葛根湯を飲んでいいのは「風寒タイプ」
ドラッグストアでも手に入る葛根湯は、風邪のひきはじめに有効です。しかし、葛根湯は本来、ゾクゾクした寒気があり汗が出ないときに服用する漢方薬です。つまり、風寒タイプの風邪に適しています。
寒さによる邪気の「寒邪」は毛穴を締める作用があります。葛根湯は、体を温めて汗をかかせ、毛穴から風邪(ふうじゃ)と寒邪を追い出します。
温める生薬が入っているので、すでに高熱がある、汗が出ているときに葛根湯を使うのは正しい使用法ではありません。ドラッグストアなどで購入するときは注意しましょう。
東洋医学の視点で、風邪のひきはじめに最適な過ごし方、対処法を解説してきました。睡眠・休息をしっかりとっても風邪が治らない、熱が何日も続く、いつもの風邪と違う場合は、一般的な風邪ではない、感染症の可能性も考えられます。無理せず医療機関を受診しましょう。
今月の養生ポイント:風邪は「休め」のサイン。生活を振り返るきっかけに
気温が一気に下がりはじめ、風邪をひく人が増えてきました。風邪は、体からの「休め」のサイン。どこかに無理が生じている証拠です。睡眠不足、疲れ、ストレスがたまっていませんか? 体のバランスが崩れると、風邪をひきやすくなります。
季節の変わり目に決まって風邪をひきやすい人と、不調知らずで1年中ずっと元気な人とでは、日頃の生活習慣に差があると感じます。前者に当てはまるなら、そろそろ食事や睡眠習慣を見直すタイミングかもしれません。
また、寒くなってきたのに薄着をしている人は要注意。体が冷えると温めるためにエネルギーが消費されます。すると免疫を正常に働かせるためのエネルギーが不足。体の防御力が低下して、風邪をひきやすい体質になります。
ひきはじめの対処はもちろん大切ですが、「予防」はそれ以上に大事なこと。本格的な寒さがやってくる前に、養生でしっかり体調を整えていきましょう!
取材・文/釼持陽子 イラスト/植松しんこ




















