
『SHIROBAKO』|キュン死に一生アニメ第5回
食事や運動だけでなく心にも栄養を! ストレス発散必至の涙腺崩壊アニメを紹介するこのコーナー。第5回は、アニメーション制作の現場で働く人々の姿をリアルに描いた群像劇『SHIROBAKO』です。
アニメ制作に携わる大勢の人々
アニメって、どんな人たちがどんな思いで作っているのでしょうか。それを教えてくれる作品が『SHIROBAKO』です。
タイトルにある「シロバコ」は、映像業界の人たちにはおなじみのもの。白い箱に入ったビデオテープのことで、ひとつの作品が完成したときに制作者が最初に手にする成果物です。なんの飾りもない、ただの白い箱に入ったそれは、しかしその作品を創った人々にとってはかけがえのないものなのです。
本作は、その「シロバコ」を作る人々=アニメ制作に携わる大勢の人々が登場する群像劇です。
登場人物は、メーカープロデューサーに監督、ラインプロデューサー、脚本家、演出家、作画監督、3D監督、撮影監督、音響監督、美術担当、原画、動画検査、色指定・検査担当、制作進行、声優、制作会社の社長や総務、外部の制作会社のスタッフやフリーのアニメーター……などなど。
全24話の物語では、大勢のスタッフがそれぞれに思いを抱いてテレビアニメ作品を完成させていく姿が描かれます。

主人公の宮森あおい(みやもりあおい)は、アニメ制作会社「武蔵野アニメーション」で働く女の子です。地元・山形県の短大を卒業後、上京して武蔵野アニメーションに就職。新人の制作進行として忙しい日々を送っています。
制作進行は、アニメ制作における取りまとめ役です。アニメの制作と放映日が決まったら、そこに向けてスケジュールを組んで、必要な資料を集めたり、各部門のスタッフの手配などを行います。
実際に制作に入ったら、全体の進行を管理して、作業の遅れなどの問題が発生したら対処します。打ち合わせや会議に出たり、各部門の担当者や個々のアニメーターとやりとりする機会も多く、コミュニケーション能力やアニメ制作全体を俯瞰する能力が問われる仕事です(その他、ここには書ききれないほどいろんな細かい業務があります)。
入社1年目の新米であるあおいは、毎日、とにかくいろんな場所を駆け回っています。社内の各部署を巡っては作業の進行具合をチェックして、かと思えば外部のアニメーターのもとへアップされた原画を取りに行ったり、同僚の制作進行がミスをすればそのフォローにまわって、そこから生じた無茶な仕事を誰かにお願いしたりと目のまわるような日々を送っています。
ともすれば、自分が何をしたかったのだか忘れてしまいそうなくらいたいへんな制作進行の仕事。だけど、あおいにはけっして忘れられない、叶えたいひとつの夢があります。

夢を誓い合った5人の仲間
あおいには、いつか一緒に商業アニメーションを作ろうと誓い合った仲間がいます。
母校である県立上山高等学校のアニメーション同好会のメンバーである安原絵麻(やすはらえま)、坂木しずか(さかきしずか)、藤堂美沙(とうどうみさ)、今井みどり(いまいみどり)。あおいは高校三年のとき、文化祭で彼女たちと制作した『神仏混淆 七福陣』を上映しました。
そして卒業式の日、あおいと、ともに卒業する絵麻としずか、一年後輩の美沙、二年後輩のみどりの5人は、あおいの大好きなドーナツを片手に誓いあったのでした。
「いつか、必ず、絶対、なんとしてでも、この5人で、アニメーション作品を、つくりま、す! どんどんドーナツどーんと行こう!」

それから2年と半年後、短大を卒業したあおいは武蔵野アニメーションで制作進行の仕事に就きました。
絵麻は高校を卒業後、あおいより一足早く武蔵野アニメーションに入社。絵の上手な彼女はアニメーターとなり、動画を経て、現在は原画の仕事をしています。
声優志望のしずかは、難関を突破してプロダクションに所属したものの、なかなかオーディションに通らず居酒屋でアルバイトをしながら生活しています。美沙は専門学校で3DCGを学び、都内のCG制作会社に勤めています。唯一の大学生であるみどりは脚本家志望で、あおいと同じ集合住宅に住んでいます。
物語は、あおいの毎日を描写しながら、それぞれ苦闘を続ける仲間たちの姿を追います。
才能はあるのに、長所でもある生真面目な性格がときに仇となってアニメーターとしての壁にぶつかってしまう絵麻。
人一倍努力家で機転もきく性格なのに、なかなかオーディションで役がとれずに悔しい思いをしているしずか。
これからのアニメに3DCGは不可欠と感じてクリエイターになったものの、会社の仕事は自動車のパーツのモデリングばかりで、自分はこれでいいのかと悩んでいる美沙。
大学に通っているみどりは、あおいの手伝いで資料収集をしたりすることもありますが、どうすればアニメの脚本家になれるのか、その道が見えずにいます。

「あるある」な話に共感の連続
本作の魅力のひとつは、アニメ業界の「あるある」が詰まっているところです。アニメ制作に関わる人々はみんな個性豊かで、だからこそそれぞれの価値観や仕事へのスタンスの違いから軋轢が生じたりします。予期せぬトラブルは日常茶飯。ときには監督や原作者のこだわりで一から作り直し、などということも起きます。そうした業務にまつわるドタバタは、アニメ制作に限らずどんな仕事でも起こり得るもの。そこが視聴者の共感を呼びます。
アニメ制作と聞くと、一般の人の頭に浮かぶのは作画を担当しているアニメーターでしょう。本作ではこのアニメーターはもちろん、アニメ制作のさまざまな現場の仕事をリアルに見せてくれます。
絵コンテが進まずに悩む監督の姿。空や雲の表現に情熱を傾ける美術担当。足音ひとつ作るのを楽しむ職人気質の音響効果。納期が気になって仕方がないプロデューサー。そして、個性の塊である社内・社外のスタッフの間を奔走して作品を完成へと持っていく制作進行。
みんな癖があるけれど、そこに悪い人はいません。誰もが良い作品を創りたいと願っている。その気持ちは全員一緒です。

作中で武蔵野アニメーションは『えくそだすっ!』と『第三飛行少女隊』という2本のテレビアニメ作品を制作します。
2本目の『第三飛行少女隊』では監督の木下誠一(きのしたせいいち)はじめとするアニメ制作側と、作品の「ゴッド=神」である原作者の野亀武蔵(のがめたけぞう)との間に意見の相違が生じ、それが物語をクライマックスへと運んでいきます。
物語には、もうひとつクライマックスが用意されています。
悩みながら、迷いながら、成長を続けていくあおい。アニメーターとして実力をあげていく絵麻。会社を変え『第三飛行少女隊』のCG制作に関わることとなった美沙。『第三飛行少女隊』に登場する戦闘機の資料集めが契機となって、脚本家の舞茸しめじ(まいたけしめじ)から課題を与えられるようになったみどり。
そのなかでただ一人、しずかだけは『第三飛行少女隊』の声優オーディションに落ちてしまい、辛い日々を送っています。
最終話ひとつ手前の第23話。ここまで観続けた人であれば、誰もが涙する場面が待っています。木下と野亀の対決。そこから発生した思わぬ展開。それがもたらす奇跡。号泣するあおいに気持ちがシンクロしない人はいないでしょう。

2020年にはテレビシリーズから4年後を描いた劇場版も公開。ここではさらに成長したあおいたち5人に出会うことができます。
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